「死」はなぜ不可逆的なのか

 もし誰かが比較的若い年齢で亡くなった場合、なぜ壊れた部分を交換して生き返らせることが できないんだろう?
 あなたの心臓が止まると、血液は脳や他の重要な臓器に行かなくなります。酸素の供給がなくなると、 数分以内にATPを全く生成しなくなります。ATPが膜輸送ポンプを動かすことができなくなると、化学的 勾配を維持できなくなり、すべてのイオンが拡散し始め、貴重な電気化学的バランスが崩れ、多くの 反応が停止します。損傷はすべてが非常に速く、一度に起こります。

(「死」=細胞の破壊が進行することと、「人工冬眠」=細胞の活動が低下・停止していることとは違う)
 大人の人間は、心臓、脳、その他のすべての臓器はその機能を停止させる温度まで冷却されても最大1時 間生き残っている。問題は氷の結晶。氷の結晶の形成を抑制する不凍液化合物を利用する。 細胞内に氷の結晶ができると、トゲの部分が細胞膜を突き刺して、細胞が壊れる。不凍液化合物は、ものを 傷つけない、トゲのない結晶の形成を促進する。
さらに臓器移植の場合は、急性拒絶反応、移植片対宿主病、感染症など大きな問題がある。 心臓を再起動することは、地球上のすべての救急医療番組で示されている。しかし、問題は生存率:
 突然の心停止の犠牲者が
1分以内に除細動を受けた場合、生存率は90%にもなります。
4分以内に行われた場合、生存率は約70%です。
10分後に実施された場合、生存率は2%に低下します。

ATP(アデノシン三リン酸)は、すべての生物の体内でエネルギーを貯蔵・供給する重要な分子で、
「生命のエネルギー通貨」と呼ばれ、筋肉を動かしたり、神経伝達を行ったりする生命活動の源です。
糖質などを材料にミトコンドリアなどで作られ、リン酸が1つ外れる(加水分解される)ときにエネ
ルギーが放出され、このエネルギーを使って活動します

死~ 腐敗~ 消滅

 ・・・次の瞬間に青年は地面に倒れる。死体は無造作に片づけられ、焼却されるであろう。 しかし、もし、そのまま放置されたらどうなるであろうか。
 青年の呼吸は停止し、心臓は弛緩したまま止まる。 やがて、からだ中の筋肉が弛緩する。 体内にある汚物はからだの外に流れ出てくる。目はどんよりと開かれ、瞳孔散大している。 遺体はなま温かく、透き通るように青白い。 筋肉の弛緩は四~五時間つづき、やがて硬直する。 血液の循環が停止したために、酸素が 供給されなくなり、 アデノシン三リン酸が分解されて、筋肉が収縮 したままになるので硬直するのである。
硬直の解除
 二四時間後には遺体のいろいろな部分にうっ血した血液が死斑となってあらわれる。やが て、遺体の硬直は消え、腐敗がはじまる。まず、屍臭がたちはじめ、死体はふくれあがり、 ウジがわく。つづいて、緑色の斑点があらわれ、次第に遺体全体に広がる。腸内に生息して いた細菌が繁殖して遺体を分解したためにできた斑点である。その後、死体は水分を失い、 皮膚は乾いて皮革のようになる。血液が循環しなくなって最初に死ぬのは神経細胞である。 大脳皮質の細胞は、心臓の拍動が止まってから七~八分後には壊死をおこす。 視床下部の神 経細胞はやや長く、七五分以上生きている。引きつづき、肝臓、腎臓、腺細胞が変性してい く。最後まで生き残るのは皮膚の細胞で、死後二~三日は生きている。髪、その他の毛、爪 は死後もしばらくのびつづけてから崩壊する。やがて、臓器は、悪臭を発するどろどろのも のになって、頭蓋、胸郭、骨盤内を満たす。 肝臓は第三週頃に、心臓は五~六ヶ月めに消滅 する。
 からだの内部にすんでいた細菌、カビ、ウイルスなどの寄生生物の餌食になった遺体は、 次に外から入り込む生物によって喰い荒らされる。ダニ類やムカデなどの多足類、クモ、昆 虫、野ネズミなどが饗宴に加わる。
 化学的にみると、からだのなかの水分は、なかに溶解している塩類や細菌とともに地中に 染み込んでいく。炭水化物は、アルコール、ケトン、有機酸に分解されて地中に入る。その 一部は炭酸ガスやメタン、水素にまで分解されて大気中に放散される。一人の成人の死体が 放散するガスの量は五立方メートルにもなる。脂肪は、アンモニアをたくさんふくんだ低級 脂肪酸に分解されて悪臭を放つ。
 タンパク質は鎖状の長い分子であるが、短く切られてアミノ酸になる。その一部は、各種 アミンやアンモニアになり、さらに硝酸、亜硝酸に酸化される。 最後まで残るのは骨である。骨はカルシウムを失い、雨水に溶けて消失する。骨がなくな るまでには普通四~五年かかるが、場所によっては数世紀もかかることもあり、歯が数千年 も残っていることもある。
               ***** (略)*****
                  柳沢桂子 著
       慶応大学医学部助手、三菱化成生命科学研究所、サイエンスライター


遺体の「腐敗」に伴う体液の漏出

 死後の体液漏出は、死後約48時間以降、腐敗の進行に伴って始まります。ただし、 状況によって開始時間は大きく異なり、早ければ死後数時間で微量の漏れが見られる こともあります。
 体液の漏れ出しは、遺体の「腐敗」という自然現象の一部として発生します。
・腐敗の開始(死後数時間〜): 死亡すると免疫機能が停止し、体内(特に胃や腸)の 細菌が組織の分解を始めます(自己融解)。
・腐敗ガスの発生と膨張(死後約48時間〜): 分解の過程で腐敗ガス(硫化水素、 アンモニア、メタンなど)が発生し、体内に溜まります。このガスによって腹部や 顔が大きく膨張します。
・体液の漏出(死後約48時間〜/3日目以降): 体内圧が高まるにつれ、皮膚が破れ やすくなったり、鼻、口、肛門、あるいは傷口などから血液や腐敗液(腐敗汁)が 体外へ押し出されるように漏れ出します。
・大量の流出・浸透(死後3〜5日目以降): 腐敗がさらに進行すると、体液の漏出が 本格化し、寝具や床材にまで深く染み込むようになります。

漏出開始時間に影響する要因
体液漏出のスピードは、以下のような環境条件に大きく左右される。
・気温: 高温(夏場など)では腐敗の進行が非常に早く、1日未満で強い臭いや漏出が 始まることもある。
・湿度: 湿度が高い環境も腐敗を助長する。
・その他の要因: 亡くなる直前の体温(高熱だった場合)、体格(脂肪が多いほど早い)、 病状なども影響する。

死後硬直のメカニズム 硬直の解除

 死後硬直は、死後にエネルギー源(ATP)の供給が止まり、 筋肉の収縮タンパク質(アクチンとミオシン)が結合した まま離れなくなることで筋肉が固まる現象です。ATPが枯渇 すると、筋肉の弛緩に必要なカルシウムイオンが細胞内に 溜まり、筋肉が収縮した状態でロックされてしまうことが 原因で起こります。
一般的に、死後2~3時間で顎から始まり、 6~8時間で全身に広がり、
約12~24時間でピークに達し、その後自然に解けていきます。
 死後硬直が解ける事を解硬というが、これは筋肉細胞に 残存するタンパク質分解酵素プロテアーゼにより筋源繊維が 切断されて小片化するためであると考えられている。筋肉 組織が崩壊していく事により起こる現象である。 (食肉ではこれを"熟成"と呼ぶ)