映画「国宝」に触発されて
映画「国宝」が社会現象化し注目される歌舞伎。
格調が高く難しそうだが、実は世相を反映させ、
流行を積極的に取り入れてきた懐の深い庶民の芸能。
歌舞伎は出雲阿国(いづものおくに歌舞伎の創始者)
(安土桃山時代の女性芸能者)の「かぶ踊り」が起源
とされ、江戸時代に形作られた。女性が奇抜な装いで
踊る姿などが人気を集めたため幕府が風紀の乱れを
理由に女性の出演を禁じ、男性が女性を演じる「女形」
が誕生した。男役は「立役」だ。
武家文化が花開いた江戸では初代市川團十郎が豪快に
演じるスタイルの「荒事」だが、商人が力を持ち、公家
がいる上方では、初代坂田藤十郎が優美な「和事」とし
て確立した。土地柄に合わせ発展し、荒事に「暫(しば
らく)」、和事に「廓(くるわ)文章」といった代表作
がある。
ジャンルを大別すると、源平合戦など歴史が題材の
「時代物」、色恋や人情を描く江戸時代の"現代劇”の
「世話物」、華麗な「舞踊」の三つ。他の芸能や民衆の
関心事を柔軟に吸収してきた。
今も三大名作として親しまれる「仮名手本忠臣蔵」
「義経千本桜」「菅原伝授手習鑑」は時代物で、江戸
中期に人形浄瑠璃で評判の演目を歌舞伎化して大ヒット。
忠臣蔵は同時代の赤穂浪士討ち入り事件を描きながら、
時代設定を室町時代に、大石内蔵助の名を大星由良之助
に置き換え、体制批判に目を光らせる幕府の規制を免れた。
世話物の代表作の一つ「弁天娘女男白浪」は「知らざぁ
言って聞かせやしょう」の名ぜりふで知られ、盗賊5人組
が活躍する。ダークヒーローも歌舞伎の華だ。「曽根崎
心中」は、江戸中期の大坂で実際に起きた心中事件を題材
にしている。
紅白の獅子が激しく毛を振る「連獅子」や弁慶が「飛び
六方」で跳ねるように花道を駆け去る「勧進帳」は能から、
藤の花の精が舞う「藤娘」は流行した大津絵から、歌舞伎
に取り入れられた。
1980年代以降は二代目市川猿翁(2023年死去)が宙乗りや
早替わりなどの派手な演出で「ヤマトタケル」に代表され
る「スーパー歌舞伎」を作り上げた。漫画も「ONE PIECE」
や「ルパン三世」が歌舞伎になっている。
演劇評論家の小玉祥子は「歌舞伎俳優がやれば何でも
歌舞伎になる」と話す。舞踊や所作など、培ってきた演技
の下地があるからだ。「武家のたしなみだった能狂言に対し、
歌舞伎は庶民の娯楽で観客のニーズに応えてきた。
今後も伝統と娯楽のバランスを取りながら進んでいくで
しょう」
映画 「国宝」は、吉沢亮や横浜流星が出演し、 才能か血筋かという歌舞伎界の人間模様や愛憎 劇を描く。リアルな劇中劇や映像美が評判を呼 んだ。 興行収入は邦画実写作で歴代1位に。 吉田修一の小説を李相日監督が映画化した。 主要ロケ地の芝居小屋「出石永楽館」(豊岡市) は、撮影監督から「最も美しい劇場」と評され た。映画公開以降、1日当たりの来館者数は多い 日で平年の約10倍に増えている。