駝鳥
つぶらな目は視界 360°。耳は後ろに向いてつき、優れた視覚と聴覚で身を守る。
オスの成鳥は体高230センチメートル、体重135キログラムを超え、現生する鳥類では最大種。
肢は頑丈で発達しており、キック力は100平方センチメートル当たり4.8トンの圧力がある。
時速50㎞で走り、最大時速80㎞、二足歩行の生き物では世界最速。
持久力もあり 時速60kmで30分走り続けることができる。
鳥類は元々視力が優れているが、その中でも最も視力が良く、42.5メートル離れたアリが移動する様子も認識できる。
雛においては、親鳥の糞を食糞することで、腸内細菌が引き継がれ成長が早くなる
平均寿命は50~60年。
病気や怪我に対して高い自己治癒力で回復するとされるが、2000年時点ではダチョウの病気に関するデータが少なく未確認。
ダチョウの卵は鶏卵約30個分の大きさ。直径15~18cm。重さ1.2~2.0kg。世界最大の卵。
「挿入器官」
鳥類の97%は腸管、尿道、生殖器がひとつになった「総排出腔」を持っていて、雄雌は互いにこれをくっつけて交尾するため、
ほとんどはペニスを持っていない。だが、ダチョウ、ハクチョウ、カモは繁殖期にはペニスが「発達」して交尾する。
ダチョウの雄は排泄孔に収納されていた20センチメートルほどある挿入器官をリンパ液で勃起させて交尾を行う。
塚本さんに聞く「ダチョウのここがすごい」
走るわ暴れるわ、でも粗食!
けがや病気で死ぬことがほとんどない、驚異的な回復力を持ちなが ら、じつは粗食。「雑食ですが、基本は草食。 ウシの1/20の牧草の 量でいいんです。 いいものを与えすぎてもダメ。 いいものといっても マメやトウモロコシですが、 粗食のほうが質のよい卵を産みます」懐かないのに背中に乗せる
どれだけ世話をしても人を覚えることはないが、背中に乗ることはできる。 「座っているときを見計らって跨るんですが、 アホやから人が乗った 違和感をすぐ忘れるんです。ただ、つかむところがないし、急に止まるし、 乗りこなすのは困難です」抗体のチカラは無限大!?
「ダチョウ抗体マスク」と「ダチョウキャンディー」は、インフルエンザや 新型コロナ、 花粉アレルゲンにたいする抗体を配合。 新たな感染症も抗体 を作って加えれば対応できる優れもの。他に発毛やアンチエイジング、がん 治療薬の研究も。抗体とは⇒ダチョウのキックで骨折・・・!
柵越しでも油断禁物。 キックされて、歯が欠け、鼻血が出た取材チームも! 慣れているはずの塚本さんもキックで脚を骨折するはめに。「ダチョウの蹴りは予測不可能。 以前は柵の中でも平気でしたが蹴られてからはうかつに近寄れません〜」塚本康浩 1968年京都府生まれ。大阪府立大卒業後、神戸のダチョウ牧場の主治医に。 ダチョウの卵から抗体を効率的に取り出す手法を研究し、2008年、京都府立大発ベンチャーを設立。 インフルエンザ感染予防のマスクなどを開発し、09年、産学官連携功労者表彰・文部科学大臣賞に選ば れた。現在、京都府立大学長。
>ダチョウが人類を救う!?
1990年代、ダチョウブームが起こったのをご存じですか。BSE(牛海綿状脳症)をきっかけに、
ウシに代わる食肉として南アフリカ共和国から世界各地に輸出されたんです。でもね、畜産を
やっている人ならダチョウで生計は立てられないと察しがつくと思います。ニワトリは成長す
るまで五か月ほど、ダチョウは一、二年かかります。体重は百六十キロくらいありますが肉は
三十キロほどしかなく、おいしく食べられるのはそのうち三キロ程度。低カロリー、低脂肪で
はありますが、生産効率が悪い。そのうえ、走りまわるわ、凶暴.......ぼくはダチョウとつきあって三十年ほどになります。大阪府立大学でニワトリの病理学を学 び、大学院で獣医学の博士号を取得しました。教職に就くと、実験などは学生がしてくれるよ うになって時間が空く。次の研究対象を探していたとき、先輩が「塚本なら好きちゃうか」と 神戸のダチョウ牧場を紹介してくれました。空き地の有効活用にと、野心家のおじいちゃん二 人が立ち上げた事業で、広い敷地でダチョウを放し飼いにするワイルドな飼い方がおもしろく て、気づけば通っていました。
初めはひたすら観察です。動物行動学の視点から規則性を見つけようとしましたが、ダチョ ウの行動は支離滅裂。 一羽が走りだすと、つられていっせいに全羽が走りだす。そこに理由は ありません。けんかや音に敏感で、パニックになると自分の家族がわからんようになる。パー トナーもわが子も覚えてへんのです。当然、ぼくのことも覚えません。人が背中に乗ると初め は嫌がるけど、そのうち人が乗っていることを忘れます。 カラスに胴体をついばまれても痛 みに鈍感で、餌に集中すると忘れる。ようするに「アホ」なんです。なにしろダチョウの脳は 目玉より小さいですから。過去も未来も気にせず、一瞬一瞬で生きているんです。
ダチョウは「アホ」、でも人類の役に立つ!
ダチョウは「アホ」。それでも絶滅せず、いまも生きている。そこには絶対的なパワーがある はずです。視点を替えて着目したのは、強靭な肉体と回復力です。ダチョウはけがの治りがす こぶる早く、風邪や感染症にもかかりにくい。自己治癒力が高いんです。その秘密は、体内に 侵入した病原体を攻撃する役割を担う「抗体」
を作る能力の高さにあります。ためしに鳥が感染するコロナウイルスを注射したら、ものすごい スピードで抗体ができました。
当初は血液から抗体を採取していましたが、ダチョウを押さえつけるだけでも大騒動。暴れるダチョウから
安全に採血するのが難しく、なにかいい方法はないか考えるうちにひらめいたのが、卵でした。
抗体は卵に移る。胎盤や母乳をとおして赤ちゃんに抗体が移る人間の母子免疫と同じような仕
組みです。 ダチョウは日照時間の長い春から秋にかけて、一年に八十個ほど産卵します。卵を
使うことで、大量の抗体が安く採れるようになりました。大学発のベンチャー企業を立ち上げ、メーカーと組んで、今ではさまざまな製品を作ってい ます。ウイルス感染や花粉症を防ぐマスク、食品、化粧品など多種多様。ダチョウが作る抗体 は熱や酸に強く、加工しやすいことも強みです。 工場で熱気にさらされても品質が損なわれる ことなく、胃腸の酸にも負けず、体内に抗体を届けることができます。 エボラ出血熱の抗体など、 医療の現場でも使われていますが、使い捨ての商品に使えるのは大きなメリットです。
ワクチン製造と鶏卵(卵黄)⇒
たとえば、アメ。アメに抗体を入れたら、どこにでも手軽に持ち運べます。 モザンビークや フィリピンのスラム街でコレラやチフスを防ぐために配ったんですが、アメのいいところは子 どもたちが喜んで食べてくれること。ダチョウの抗体は、なんにでもなりうる無限の可能性を 秘めています。
ぼくらがやっておくべきことは、新しい「なにか」が起こることを想定し、備えることです。 コロナ禍でマスクの開発などに対応できたのは、以前にフルーツコウモリのコロナウイルスで 作っていた抗体とよく似ていたから。おかげですぐ生産体制を整えられました。つねに未来を 見すえ、いろんな抗体をストックしておく。今は契約しているところも含め、国内外で合計三 千五百羽を飼育していますが、抗体採取のために稼働しているのは五十羽。ダチョウがすぐ卵 を産んでくれる環境をつくっておくこともだいじですね。
歴史を生き抜いてきた「ごっついもん」に希望がある
ぼくは子どもの頃から鳥が好きで、最終的に「ごっついもん」にひかれたんやと思います。 ダチョウは三億年以上前からいたといわれる原始的な旧鳥類。今生きていることがすごいです。 時代の流れの中で残ってきたものには秘めたなにかがある。酒蔵の酵母もそうですよね、 ずっと受け継がれてきたものにはパワーがある。野菜にしても、もともとあるものが品種改良さ れているのであって、まったく新しいものはなかなか生み出せないですよね。近頃はAIの進 化が目覚ましいですが、原点に戻ることも重要だなと思います。未来への希望が、そこにある気 がします。ワクチン製造と鶏卵(卵アレルギー対策)
インフルエンザワクチンは製造過程で鶏卵が使われるため、微量ではあるが卵白成分が含まれる。
ウイルスを大量に培養増殖させるのに鶏卵が適しているからです。ウイルスは生きた細胞に感染して
増殖するため、ワクチンのもととなるウイルスを増やすために、卵の中の細胞が利用されます。
1 培養 卵の中でウィルスを増殖させる
2 精製 ウィルス以外の成分を除去
3 不活性化 ウィルスの毒性を無くす
4 ワクチン化 ウィルスの抗原タンパク質を集めて原液をつくる
5 製品化
現在は精製技術が向上し、卵アレルギーのある人でも通常通り接種できる。
塚本氏らが開発したダチョウの卵黄による精製法を使うと、1羽のダチョウから年間400gの抗体が
精製可能となる。卵1個当たり2~4g採取可能で、半年間で計算すると、ウサギの400~800倍の量が採れる
ことになる。生産コストも低く、ニワトリを使って精製した場合に比べ30分の1のコストで済むという。
また、1羽から大量に採取できるためロット間の差が少ないというメリットもある。
パンデミックの特徴の一つは、短期間に想像以上の大量の患者が発生することにある。このため
対策面でも、「短期間に大量」がキーワードとなる。ダチョウの卵で鳥インフルエンザ抗体を大量生産
する技術は、「短期間に大量」を現実化するもので今後の展開が注目される。