あなたならどの段階で詐欺を疑い、電話を切れるだろう。
第一日目2024/6/5(水)
午後4時頃、自宅の固定電話に「総務省電波監理審査会です。あなたの携帯から多量の迷惑メール
が発信されていることを探知しました。通信サービスがすべて停止されるので、詳細をお知りになりた
い場合は1番を押してください。」というメッセージが流れた。
-----(ここが最初の分かれ道だ。ややうさん臭く思ったが、自分はアマチュア無線をやっている
ので、免許申請や電波利用料の納付先が総務省、ドローンの飛行許可申請先も総務省なので、あながち
無関係な電話ではなかった。)
1番を押すと、
審議官 「こちらは審査会のカトウカズヤです。ドコモショップ新宿南口店で、宮原さん名義の携帯から大量の不正メールが送信されています。放置するとすべての通信が停止されてしまいます。080-2482-6946は宮原さんの携帯ですか」
自分 「いいえ違いますが、ちょっと待ってください、調べます・・・。 家族のでもないです。」
審議官 「分かりました。それでは新宿警察署の担当につなぎますから、これから申し上げる内容を伝えて、即刻被害届を受理してもらうようにしてください。では文面を言いますから、書きとってください。」
-----(次の内容を聞き取りながら、復唱するように言われる。この間家内が横にいてやり取りを聞いている)
<内容>「私の個人情報が漏れて、不正に携帯電話を契約されているので、このままでは通信サービスが全て止まってしまうので、2時間以内に被害届を提出させてほしい。
公文書番号56421897
違反対象番号08024826946
契約日時2024/3/15(金)
契約店舗 東京都新宿区新宿3-35-3
ドコモショップ新宿南口店
被害内容 第三者による私名義の携帯電話の契約」
審議官 「では、新宿署の担当につなぎます」
警察官 「新宿署の木村です」
自分 「被害届を提出したいのですが、指示された文面を読みます」
(上記文章を読み上げる)警察官 「分かりました。いくつか調べますので切らずにお待ちください。」
(2~3分じっと待つ)警察官 「木村です。被害届を受理するには本来こちらにお越しいただかなければなりません。」
自分 「はい」
(握っている電話子機がピッピッと鳴り出す。電池切れかと思い、2階の親機に向かう。家内は1階に残る)
(わざと音を入れて一人になるように誘導されたのか、本当の電池切れサインか今となっては分からない)
警察官 「簡易的に行う方法があります。宮原さん、LINEはやっていますか。」
自分 「はい」
警察官 「ではLINEでやり取りすることになります。SMSでメッセージを送りますからそれを開いてください」
(ここからはスマホのLINEで会話が進む)警察官 「私の身分証です」(警察手帳の画像が送られてきた)
(画像リンク1 偽造身分証)
「では宮原さんは運転免許証があればその画像を送ってください」
自分 (運転免許証の画像を送る)
警察官 「問い合わせ中の返事が来たようですので、電話を切らずにお待ちください」
(待つこと2~3分)警察官 (押し殺した声で)「宮原さん、警察にまだ隠していることはありませんか」
自分 「別にないですが」
警察官 「本当に何もないですか」
自分 「ないです」
警察官 「特殊詐欺グループの主犯コバヤシリョウの所から、200以上の口座を押収しました。その中に宮原さん名義の口座とキャッシュカードが含まれています。」
自分 「ええ!?どこの銀行口座ですか」
警察官 「兵庫信用金庫です」
自分 「そこは取引ないです」
警察官 「カードを紛失したり、スマホを置き忘れたりしたことはありませんか」「財布を落としたことはないですか」
自分 「どれもないです。ネットショッピングを利用しているので、そこから情報が漏れて誰かが偽造したんではないですか」
警察官 「私たちも最初はそう考えました。ところで宮原さん、今まわりに誰かいますか」
自分 「いいえ、自室に一人です」
(2階に移動したので、家内は1階にいる)警察官 「よく聞いてください。あなた名義の口座に1億6千万の預金残高があり、16人から被害届が出ています。あなたが口座を売ったとか、グループに何らかの形で加担している可能性は否定できません。」
自分 「そんなばかな・・・・」
警察官 「あなたが加担しているとは思いませんが、速やかに捜査を進めるために、約束してほしいことがあります。私とのやり取りで知りえた情報を絶対に口外しないでもらいたい。守秘義務遵守を約束することです」
自分 「分かりました」
(書類作成ということで1~2分待たされる。守秘義務誓約書がPDFで送られてくる)
(画像リンク2 守秘義務誓約書)
警察官 「捜査妨害になりますから第三者には絶対口外してはいけません」
自分 「家内もですか」
警察官 「もちろんです」
自分 「了解しました」
警察官 「では、朝晩2回、守秘義務を守っていることをLINEで報告するようにしてください」
「では今日はここまでです。ご協力ありがとうございました。」
第二日目 2024/6/7(木)
朝9時頃 LINEに「今日午後空いている時間はないですか」と聞いてくる。
「午後1時から待機します」と返事。
警察官 「宮原さん、あなたが今どんな状況か分かっていますか」
自分 「はい」
警察官 (5~6秒の間)「本当にわかっていますか」
自分 「はい、被害者ではなく、詐欺グループの関係者という疑いを持たれている」
警察官 「そうです」(嬉しそうな声に聞こえた)「宮原さん、私の手元に銀行口座凍結通知書
(画像リンク3 偽造口座凍結通知書)
が届いています。あなたの全ての銀行口座がただちに凍結されます。期間は捜査が終了するまでで、6か月から1年かかることもあります。」
自分 「え!、それは困る」
警察官 「そうですよね。担当の検察官を知っています。なんらかの方法がないか相談してみてはどうですか。話の分かる人ですよ」
自分 「ぜひお願いします」
警察官 「しばらくお待ちください」 (5分ほど待たされる)
今、検察官室の前にいます。中に入りますから宮原さんからお願いしてみてください」
検察官 「東京地検検事のカワシマです」
自分 「宮原と申します。現在詐欺事件の関係者という疑いをもたれ、捜査のためわたしの全ての銀行口座がすぐに凍結される事態になっていて大変困っています」
検察官 「それはお困りですね。私の一存で捜査手法を変えるわけにはいきませんが、10日から最長2週間までなら、執行を止めておくことはできます。」
自分 「ぜひお願いします」
検察官 「ではこれから会議がありますので、あとは警察官の木村と話を詰めておいてください」
(しばらくしてLINE電話が鳴る)警察官 「木村です。どうしても生活に必要な口座は、凍結の順番を最後にすることもできるようです。「宮原さん名義の全ての銀行口座の最終取引の日にちと、残高を知らせてくれませんか。銀行に 照会して不審な金銭の流れがないか調べるためです。」
自分 「分かりました。ちょっとお待ちください」
(自分と家内の通帳を取りにいく)
(日にちと残高を読み上げる)
警察官 「定期預金も全部お願いします」
自分 (定期残高も読み上げる)
警察官 「ではここからはビデオ通話に切り替えます。方法は・・・・」
(言われるままLINEを操作するとビデオ通話画面になる。しかし相手の顔は映らず、紫の背景に菊の紋章だけが表示されている。こちらの顔は左上に小さく表示されている。対等なビデオ通話ではないと感じた)
警察官 「銀行のアプリがありますね。それを押してください」
自分 (三井住友銀行のネットバンキングをタップする)
警察官 「下にスクロールしてください。」(1~2秒の間)そこでログインしてください。」
自分 「ちょっと待ってください。そちらからはこちらの画面が見えるようですね。パスワードが見られてしまいます」
警察官 「いや、こちらからは見えません」
自分 「そうは言われても鵜呑みにはできません。木村さんからは私の顔や部屋の様子が見えているわけだから、あなたの顔と署内にいることが分かるような画像を見せてくれれば信用できます」
警察官 「いや、それはできません。秘密保持のため室内の撮影は禁止なのです」
自分 「う~ん。(心証を悪くすると不利だと考え)しかたないですね。では話を進めてください」
警察官 「捜査手法なのですが、システム連動捜査
(画像リンク4 システム連動)を行います。すべての口座の預金を三井住友銀行ひとつにまとめてください。捜査が手早く進めば、凍結期間も短くなります。」
自分 「この銀行はネットショッピングに使っていて、情報が漏れている心配があります。日新信用金庫は年金受給に使っているので、こちらにしてはいけませんか」
警察官 「いや、捜査を進めるうえで三井住友銀行に絞っているので、ここに集めてください」
自分 「ふ~、分かりました」
警察官 「いつまでに完了できますか」
自分 「早いほうがいいですね。では明日は金曜日なので、明日できるだけやってみます」
警察官 「定期も解約して一か所に集めてください」
自分 「やってみます」
警察官 「では、くれぐれも守秘義務を守って、指示通り速やかに行動してください。きょうはここまでです」
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一日目は俄かに信じられない状況だが、90%信用せざるを得ないと思っていた。自分に落ち度はなく
とも、事件に巻き込まれている可能性は否定できない。
二日目のやり取りで疑惑が膨らんだ。
1,なぜ顔を見せない。実在の人物か。
2,口座を凍結するなら、なぜ一か所にまとめる必要が
あるか。
3,口座凍結決定が早すぎないか。決定書は本物か。
これはやっぱり対面で相談するべきだと判断して、地元の三木警察署に相談の予約をとる。(午後6時)
三木警察署でLINEのやり取りを見てもらい、守秘義務誓約書、銀行口座凍結決定書の真贋を判定して
もらう。
「ほぼ間違いなく詐欺です」という回答。根拠を聞くと
警察はLINEでのやり取りはしない。連絡は警察の電話(末尾~0110)を使うとのこと。
また、警察手帳の画像を送ることはしない。悪用されるからとのこと。
「警察手帳が本物か新宿署に問い合わせ」「銀行口座凍結決定書を裁判所に照会」してほしいと頼んで
帰宅した。
帰宅途中三木警察から電話があり、新宿署に木村は実在しない、木村という名前での被害届がすでに数
件でているとのこと。万歳を叫んだ。
夜のうちに三井住友銀行のネットバンキング用パスワードを変更し、その他よく使ういくつかのサイト
のパスワードも変更した。
明日の午後、三井住友銀行の指定口座にすべてのお金が集められるまで、相手の動きはないはずだ。
だまされているふりをして、「守秘義務は履行中です」というメールを送っておいた。
翌日、「口座凍結命令書」の発行元になっている東京地裁に電話して、記載されている部署に裁判官が
実在するか問い合わせた。
結果は「記載されている部署は2か所呼び名が違う」、その名前の「裁判官は実在するが所属が違う」
ことが分かった。
なによりも目からうろこだったのは、「銀行口座凍結を本人に予告することはない。時間の猶予を与え
れば、その間に金銭を動かされてしまうから」ということだ。
今回は「凍結されて困ることになるぞ」という揺さぶりに使われたわけだ。
今振り返ると、警察官から電話があったとき、所属を聞いて、「こちらからかけ直す」というべきだっ
た。
これをしておいたら長時間の不毛な会話はなかったはずだが、被害者ではなく、加害者の疑いがかかっ
ているという展開は初めてだ。
漏洩した個人情報をもとに、ビッグデーターをAIで解析すれば、相手の興味関心を高い精度でつかめ
るようになる。そうすれば詐欺のトークはより的確に相手にヒットするようになるはずだ。いつまた自
分が新手の詐欺の標的になるか分からない。
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これからするべきことは、
1,ネットでの決済に指紋認証を加える。
PCは情報漏洩を監視するセキュリティソフトを導入
すること。
2,クレジットカード決済の見直し。
カード番号、有効期限、セキュリティコード3桁の入力
だけで買い物ができてしまうから、カードを紛失してい
なくてもこれらの情報を持っていれば、第三者が自由に
買い物ができてしまう。便利さは逆にとてもあやうい。
3,LINEのビデオ通話は相手の画面操作を盗み見ることが
できるのか、調べてみよう。できそうだ!?
4,本物の「銀行口座凍結」はどのように行われるのか。
参考資料